実験5:鈴木ー宮浦カップリングによるビアリール化合物の合成  本文へジャンプ
講義で使用するスライド


実験5に関する説明

最後の実験では,鈴木−宮浦カップリング反応により,ビアリール化合物を合成します.

クロスカップリングとは

クロスカップリングとは,異なる構造をもつ2つの分子を結合させて一つにする化学反応です.特に,結合左折ことが難しい,異なったベンゼン環などの炭素原子を選択的に結びつける化学反応を指します.
実験4では,副反応で,ホモカップリングと呼ばれる反応でビフェニールができたのを経験しています,

クロスカップリング反応の研究歴史

今回,触媒として,パラジウムが活躍します.炭素ー炭素結合を形成する際にPdを用いた最初の例がヘック反応と呼ばれるものです.カップリングさせるには,対象となる炭素原子に目印を付けておくことで反応がスムーズに進行しますが,根岸先生は,亜鉛やアルミニウム,ハロゲン原子を目印とし,更に鈴木先生は,ホウ素を目印として利用することにより広く「利用される反応となりました.

目的(1)

2010年に,鈴木先生はこの功績によりノーベル化学賞を受賞されました.この実習では,医薬品などの製造に欠かせない技術となっているこの反応を実際に行ってみます.

鈴木ー宮浦カップリングの例

鈴木ー宮浦カップリングを用いて製造されている化合物を上げました.いずれの化合物も,赤の波線部の結合を,鈴木ー宮浦カップリングで構築しています.

ロサルタン

血圧降下薬のロサルタンは,鈴木ー宮浦カップリング反応を用いることにより,大幅に製造コストが削減できました.

バルサルタン

同じく,血圧降下薬であるバルサルタンの鈴木ー宮浦カップリングを用いることで,製造工程の短縮がなされました.

液晶化合物

液晶化合物も,鈴木ー宮浦カップリングを用いることで,低コストで製造が可能となりました.

反応の仕組み

反応の仕組みを図示しました.パラジウムや目印の原子の役割を見て下さい.

4-フェニル安息香酸の合成

最初に,スライドの反応を行います.非常に短時間で炭素−炭素結合が形成されるのを確認できると思います.

塩基の役割

この反応には必ず塩基が必要です.

触媒サイクル

触媒は,スライドに示したように再生されます.

蛍光を発するビアリール化合物の合成

二つ目の反応として,蛍光を発するビアリール化合物を合成します.この反応では,生成物は単離せず,蛍光を観察することで,反応の進行を確認します.

ソルバトクロミズム

不思議なことに,溶媒によって,蛍光の色が変わります.それを,ソルバトクロミズムといいます.

ソルバトクロミズムの原理

通常,有機化合物は,一重項ですが,エネルギーを受けると励起して励起一重項となります.スピンの反転を伴わないので起こりやすい過程です.その後,一部は熱としてエネルギーを放出後(無輻射過程,あるいは内部転換と書いてあるものもあります),緩和一重項(あるいは,第一励起状態)という形となり,この段階から,基底状態に戻るときにエネルギーを蛍光と言うかたちで放出します.このエネルギーの大きさによって,放出される蛍光の波長も変わります.

ソルバトクロミズム

ソルバトクロミズムを示す化合物は,周りの溶媒の種類によって,安定化の度合いが変わります.安定化された状態から,基底状態に戻る際には波長の長い蛍光を発します,逆に,安定化の度合いが少ない溶媒の場合には,放出されるエネルギーが大きいため,波長の短い蛍光が放出されます.

極性溶媒の再配向

スライドの化合物は,共鳴構造式がかけますが,その一つで分極が大きい場合,極性溶媒は,その分極に従って再配向が起こり,構造を安定化させます.
興味があったら,いろいろ調べてみてください.