研究室概要
我々は製剤学(粉体工学および薬物送達システム(DDS)研究を含む)を基礎として以下の研究テーマを推進しています。
放出制御製剤の開発
 〜機能性高分子とワックスの複合による新放出技術の確立〜

  ワックスマトリックス製剤とは、脂溶性軟膏基材として用いられるワックスに粉末医薬品を均一に分散させた放出制御製剤です。マトリックス中では、まず分散している薬物が溶解・拡散により表面から放出され、放出に伴い個体の残存している境界面が後退します。したがって、拡散に必要なマトリックス中の距離が増加することで、時間の経過によって薬物放出速度が減少し、徐放性が可能になり、ひいては自由自在に薬物の溶出をコントロールできると考えられています。現在、”噴霧凝固造粒法による大腸デリバリーに関する研究””噴霧凝固造粒法による機能性粒子の設計と製造に関する研究(マイクロポア)””噴霧凝固造粒法を用いた苦味マスキング製剤の設計と製造に関する研究”など、種々のワックス、高分子等の組み合わせを検討し、ワックスマトリックス製剤の可能性を追求しています( Int J Pharm, 395, 2010; Int J Pharm. 414, 2011; Int J Pharm, 428, 2012) 。

DDS(Drug Delivery System)の開発
 〜ナノパーティクル、リピッドエマルジョン、リポソーム等〜

  難溶性薬物の吸収を増大させ、体内に効率的に薬物を送達させることで適切な経口バイオアベイラビリティを得るためには、薬物の水への溶解性を改善することが重要です。これまで世界中で、水溶性高分子との混合粉砕、薬物の非晶質化、固体分散体の調製など、さまざまな方法が用いられています。近年では、特にナノテクノロジーが注目されており、リピドエマルションやリポソームなど薬剤を選択的かつ効率的に送達するための薬物送達システム(DDS)の研究開発が活発に行われています。
  ナノテクノロジーによる薬物の微細化は、薬物の比表面積を増大させ、溶解速度を向上させるだけでなく、Ostwald-Freundlich’s Equationに従って、薬物の溶解度を増大させます。また、ナノ粒子はサブミクロンサイズのため粘膜層に深く進入し、結果的に薬物の吸収を持続化できバイオアベイラビリティを向上させます。さらには、粒子が微小で肝臓や脾臓などの細網内皮系に捕捉されにくいために全身循環における滞留性が増大し、薬物作用の持効力が期待できます。以上のことから、ナノサイズへの薬物の微細化は有用な戦略であると考えられます。
  当研究室ではこれまでに、平均粒子径 50 -100 nm以下の超微粒子製剤である脂質ナノ粒子懸濁液を調製し、実際にグリセオフルビンやニフェジピンなどの種々の難溶性薬物の微細化による溶解性の改善に成功してきました(Chem Pharm Bull. 54, 2006; Int J Pharm. 354, 2008; Int J Pharm, 377, 2009; Int J Pharm, 451, 2013; Chem Pharm Bull. 62, 2014)。現在は本ナノ粒子の物理化学的特性についての詳細を検討しており、今後は臨床応用も視野にいれ研究を進めていきます。

放射光X線を利用した製剤の構造と物性の評価法の開発

 医薬品の放出制御や苦味マスキングをはじめとする製剤の様々な機能は,その構造と密接に関係しています。したがって,製剤の機能を解明するためには,その構造を詳しく知ることが重要です。製剤の構造を詳しく調べる際には,放射光X線が大きな威力を発揮します。放射光X線は,加速器で加速された電子が磁場により進行方向が曲げられたときに放射されるもので,非常に明るく,真っ直ぐに進む特長があります。この放射光X線を用いることで,分子量が大きいために構造決定が不可能であった医薬品原薬の結晶粉末試料の結晶構造を,初めて決定することができました。また,直径が200 μm程度の微小な製剤粒子試料の内部では薬物がどのように分布しているかを,X線CT法という解析法を用いることで,試料を壊すことなく明らかにしています。このように私たちは,製剤研究に放射光科学の最新の成果を取り入れ,製剤に関してこれまではわからなかった詳細な構造情報を得ることで,製剤の構造と機能との関係を明らかにし,より優れた製剤を設計するために役立てていく研究を進めています(Acta Crystallogr C. 68, 2012; Acta Crystallogr Sect E Struct Rep Online. 68, 2012; Int J Pharm, 445, 2013; J Pharm Sci, 103, 2014; Int J Pharm, 481, 2015 )。

新規物性評価法の展開

  固形製剤の品質を評価する理化学試験の一つに「溶出試験」があります。この試験では、溶解度や拡散に関する定数といった主薬の性質、また主薬の粒子径や粒度分布、処方、製造方法、崩壊性や分散性といった製剤性状などの製剤技術に関わる性質などが統合された結果として算出されます。薬物の溶出性については、広範囲にわたる多くの成書があり、主薬自体の溶解性については、理論的かつ体型的な検討がなされています。しかしながら、製剤からの薬物の溶出過程を現象面のみならず、機構面より記載した文献はほとんどありません。
  通常、主薬の溶解度は薬物固有の値であり、製造条件に影響されません。また、溶液量も任意に決定できる因子です。これらのことから製造条件により溶出速度が変化した場合、それは主薬の溶液に接した表面積の違いであるものと考えられます。この「溶出過程における溶液と主薬の接する部分」有効表面積ですが、この面積は経時的に変化することや他の添加物の存在などにより実測値として求めることが不可能です。
   当研究室では、この有効表面積を溶出量と時間の関数と捉え、その時間に対する積分値が溶出試験結果より算出可能であることを見出しています(Chem Pharm Bull. 33, 1985; Chem Pharm Bull. 34, 1986; Chem Pharm Bull. 34, 1986; Int J Pharm, 448, 2013)。現在、種々の製剤的要因に関して有効表面積を算出しており、今後、この「有効表面積」を指標とした新しい製剤設計が可能になると考えています。

静岡県立大学薬学部 創剤科学分野
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