ナトリウム依存性グルコース輸送体に関する研究

 動物は生きていくためにエネルギーを産生する必要があます。そのエネルギーの源はグルコースですが、食物中の糖質は小腸のナトリウム依存性グルコース輸送体(SGLT)を介して細胞内に取り込まれ、ナトリウム非依存性グルコース輸送体(GLUT)を介して血液中に取り込まれます。血液中のグルコースは腎糸球体で濾過され、近位尿細管上皮細胞の SGLT および GLUT を介して再び血液中に再吸収されます(図1)。SGLT は Na+/K+-ATPase によって作られるナトリウム濃度勾配を利用して、細胞内へグルコースを輸送します。現在、SGLT1、SGLT2、SGLT3 の3種類が同定されていますが、SGLT3 はグルコース輸送機能を持たずにセンサーとして働くと示唆されています。グルコースは必要不可欠な栄養ですが、過剰摂取は糖尿病や肥満などの生活習慣病を引き起こすために、注意が必要です。そのため、SGLT の基質認識特性、発現調節機構、機能部位の探索といった研究を進めることにより、グルコースの吸収をコントロールできようになり、肥満や糖尿病の予防や改善につながると考えられます。

図1

 我々は発現(分布)調節機構に興味を持っており、トラフィッキングのメカニズム、 会合タンパク質、SGLT1 の新機能の解明を目指して研究を進めています。これまでのところ、下記のような新しい知見を得ております。

 (1) アンジオテンシンII (ANGII) というホルモンは、ナトリウム濃度の調節において重要な役割を果たします。SGLT1 のグルコース輸送能に対する ANGII の効果を調べたところ、濃度依存的な阻害作用が観察されました。ANGII レセプターは G タンパク質と共役しており、細胞内セカンドメッセンジャーとしてcAMP の関与が考えられました。予想通り、ANGII により cAMP 濃度の減少が観察されました。膜透過性 cAMP アナログの 8-Br-cAMP は、グルコース吸収を促進し、プロテインキナーゼA 阻害剤の H-89 はグルコース吸収を阻害しました。次に cAMP がどのようにグルコース吸収を調節しているのかを明らかにするために、原形質膜上の SGLT タンパク質の発現(分布)を調べました。原形質膜に発現するイオン輸送体は、ベシクルの細胞内から原形質膜への移行(トラフィッキング)によりその機能が調節される場合があります。8-Br-cAMP は原形質膜上の SGLT1 分布量を増加させ、ベシクルのトラフィッキングに関与するフォスファチジルイノシトール 3-キナーゼ (PI 3-K) の阻害剤である wortmannin は、8-Br-cAMP の効果を阻害しました。以上のことから、SGLT1 の原形質膜への発現は cAMP/プロテインキナーゼA/PI 3-K といった経路を介して調節されることが明らかになりました(図2)。

 (2) SGLT に会合するタンパク質は全く報告されていませんが、我々は熱ショックタンパク質 (Hsp) ファミリーに含まれる Hsp70 が会合することを発見しました。イオン輸送体と Hsp の会合もまだほとんど解明されておらず、その特異性や役割を詳細に検討していく必要があります。これまでのところ以下のことが明らかになっています。マイルドな熱ショックにより SGLT1 と Hsp70 の会合量が増加し、原形質膜上の SGLT1 の分布量および SGLT1 を介したグルコースの吸収が増加します。予め Hsp70 抗体を細胞内に導入しておくと、SGLT1 と Hsp70 の会合が阻害され、グルコースの吸収も阻害されました。これらのことから、障害を受けた細胞が自己を保護または修復するために SGLT1 を介してグルコース吸収を増加していると考えられます。そこで、SGLT1 の活性化と細胞障害との関連について検討しました。細胞を致死以下の高温に曝すと、SGLT1 と Hsp70 の会合、SGLT1 の活性化が起こります。高温処理により細胞は大きなダメージを受けていませんが、原形質膜は若干リーキーになり、小分子を通過させるようになりました。この物質の透過性の指標として calcein という蛍光色素を用いて、高温処理による細胞障害からの回復に SGLT1 の活性化が関与することを明らかにしました。また、高温処理によりタイトジャンクションもリーキーになり、高分子デキストランの輸送が増加しました。このタイトジャンクション障害の回復にも、SGLT1 の活性化が関与していました(図3)。今後、高温以外の生体内で起こりうるストレス障害を細胞に与えて、SGLT1 の活性化が起こるのか?SGLT1 が障害の回復に関与するのか、どのようなメカニズムを介して細胞障害が回復するのかを調べていく予定です。


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Biochim. Biophys. Acta 1717 (2005) 109-117
Biochim. Biophys. Acta 1711 (2005) 20-24
J. Cell Physiol. 203 (2005) 471-478
Yakugaku Zasshi 124 (2004) 959-964
Biochim. Biophys. Acta 1643 (2003) 47-53
J. Biol. Chem. 277 (2002) 33338-33343
Jpn. J. Physiol 52 (2002) 395-398
Life Sci. 71 (2002) 1-13
Biochim. Biophys. Acta 1510 (2001) 118-124