免疫抑制活性物質FR901483の全生合成に成功

 本学薬学部 生薬学分野 渡辺 賢二 教授とUCLAに所属するYi Tang 教授らは、糸状菌Cladobotryum sp. No 11231の生産する免疫抑制活性を持つ物質「FR901483」の生合成に関わる全ての酵素を見出し、それらを用いて「FR901483」の全生合成を達成しました。

 タクロリムスやシクロスポリンAは、免疫抑制活性剤として臨床で広く用いられている医薬品であり、臓器移植の際の拒絶反応の抑制等に利用されています。この二つの化合物は細胞内タンパク質と複合体を形成することでIL-2産生阻害を起こし、免疫応答の阻害を起こすことが知られています。一方で、糸状菌の一種であるCladobotryum sp. No 11231が産生する化合物FR901483は、これらIL-2産生阻害に基づかない作用機序を有する免疫抑制活性物質として、1995年に発見されました。その作用機序はいまだ明らかになってはいませんが、これまでに発見されている免疫抑制剤とは異なることから、新たな免疫抑制剤開発の足掛けとなることが期待されています。

 またFR901483は、含窒素三環性骨格および多彩な官能基を有していることから有機合成化学的にも注目され、これまでに数多くの全合成研究が報告されています。しかしながら、その複雑な構造のため、その全行程の収率は10%未満となっています。今回の研究では、FR901483の生合成に関わる酵素を特定し、それらすべての機能を明らかにしました。加えて、すべての酵素を利用することで、FR901483の全生合成を達成しました。これによりFR901483だけではなく、生合成過程の中間体等が効率よく獲得できるようになりました。今後のFR901483をリード化合物とした新たな免疫抑制剤開発につながる結果となりました。

 本成果は、本学薬学部 生薬学分野 渡辺 賢二 教授、大鵬薬品工業株式会社とUCLAに所属するYi Tang 教授らによる共同研究成果です。化学分野において権威のある国際化学雑誌「Journal of American Chemical Society」(Impact Factor: 14.612) 電子版に2020年12月29日付けで掲載されました。

〈掲載された論文〉

Biosynthesis of the Immunosuppressant (-)-FR901483

Zhuan Zhang, Yui Tamura, Mancheng Tang, Tianzhang Qiao, Michio Sato, Yoshihiro Otsu, Satoshi Sasamura, Masatoshi Taniguchi, Kenji Watanabe* and Yi Tang*

関連リンク:

American Chemical Society

https://pubs.acs.org/doi/10.1021/jacs.0c12352

静岡県立大学 薬学部 生薬学研究室

http://sweb.u-shizuoka-ken.ac.jp/~kenji55-lab/