本学薬学部 生薬学分野 渡辺 賢二 教授とUCLAに所属するYi Tang 教授らは、糸状菌Penicillium FKI-1938(ペニシリウム FKI-1938)の生産する抗感染症活性を持つ抗生物質「シトリドンA」の化学構造に含まれるフェニルフロピリドン骨格がポリケチド合成酵素とペプチド合成酵素のハイブリッド型巨大酵素によって生合成されることを明らかにしました。
糸状菌由来天然物フェニルフロピリドン類は、さまざまな抗菌および細胞毒性活性を示し、アゾール系抗真菌薬の活性を増強させることが知られています。 本研究においてフェニルフロピリドン生合成遺伝子群を用いた異種宿主発現系を構築して、シトリドンAおよびその類縁体の生産を達成し生合成経路を明らかにしました。 これら天然物は高い反応性を持つオルトキノンメチド中間体から電子環化反応、異性化を伴う環化反応あるいは共役付加反応を経て生合成されると考えられました。さらに、シトリドンBの四級炭素はシトクロム450によるエポキシ化、続く炭素骨格の転位反応によって形成されることが示されました。 本研究の結果は、天然では酵素によって生成されたオルトキノンメチド中間体の反応性を活用して複雑な骨格構造を持つ化合物が生合成されることを明らかにした一例となります。
今回の研究では天然物の分子多様性を担う酵素群を突き止め、生合成経路を明らかにすることに成功しました。これら酵素をさらに解析することによって、天然には存在しえないさらに生物活性の優れた化合物の創製が可能となるでしょう。
本成果は、本学薬学部 生薬学分野 渡辺 賢二 教授とUCLAに所属するYi Tang 教授らによるJSPS頭脳循環共同研究成果です。化学分野において権威のある国際化学雑誌「Angewandte Chemie International Edition」(Impact Factor: 11.690) 電子版に2020年8月11日付けで掲載されました。

〈掲載された論文〉
Concise biosynthesis of phenylfuropyridones from fungi
Zhuan Zhang, Tianzhang Qiao, Kenji Watanabe* and Yi Tang*
関連リンク:
Wiley Online Library
静岡県立大学 薬学部 生薬学研究室