1. 教授挨拶

教授 近藤 啓 Ph.D.

創剤科学分野(創剤工学講座)の研究室が誕生したのは静岡薬科大学時代の1967年です。当時の名称は薬品製造工学講座であり、工業の領域で活躍できる薬剤師の育成を目指して教育・研究活動がスタートし、50年以上が経過しました。当研究室の特徴の一つは、モノづくりの現場での実務経験のある企業研究者が教授を務めてきているということです。私で5代目となりますが、「モノづくり」を通して人材を育成していくという研究室の基本理念は代々引き継がれています。

 “くすり・医薬品”という言葉から多くの方は錠剤やカプセル剤といった剤形を想像することでしょう。患者さんが服薬可能な剤形を創り出す創剤技術を研究する製剤学はユーザーに近い学問の一つであり、実学の色が強いと言えます。どんなに薬理活性の高い化合物が見いだされたとしても、患者さんが服薬できる“くすり・医薬品”にならなければ薬物治療は達成されません。また、近年の創薬パラダイムシフトは従来の低分子化合物に加え、中分子化合物、抗体、核酸・遺伝子、細胞といった新しいモダリティの研究を活性化しています。モダリティの多様化は患者さんにとって薬物治療の選択肢が拡がることに繋がりますが、実現を可能にするためには、それぞれのモダリティの効果を最大限に引き出す製剤・DDS(Drug Delivery System)技術の進展が必須となります。DDSとは,「必要な場所」に「必要な量」を「必要な時間」だけ作用させ,薬物の効果を最大限に発揮させるための体内動態制御技術・システムのことです。機能性添加剤の創出,製剤製造装置開発の進歩,分析技術の進展により近年のDDS研究の推進力は増大しています。薬物の有効性・安全性・服薬時の利便性の改善により価値の高い“くすり・医薬品”の創出に繋がることが期待されています。

一方で, “くすり・医薬品”は、一定量の薬物が含まれていること、一定期間の安定性が確保されること、一定の品質で再現性良く製造されること、を考慮して設計することが求められ、これらを扱う製剤学の重要な役割にはユニット化により患者さんが服薬可能な剤形を創り出すことがあります。一つの“くすり・医薬品”にたくさんの製剤に関する技術・情報を組み込むことになります。

創剤科学分野 創剤工学研究室では従来の経口固形製剤化技術開発、粉体工学研究に加え、新しいモダリティをヒトに投与可能にする製剤・DDS技術の研究開発を進めていきます。新規放出制御製剤の開発、ナノテクノロジーを駆使した新規DDS技術の開発を通して、テーラーメード製剤、小児用製剤の具現化を目指し、患者さんに届くモノづくりを念頭に置いた基礎研究に取り組んでいきます。