研究内容

当研究室では企業(製薬,食品,化粧品),国内外の大学・研究機関との共同研究として主に以下のテーマに取り組み,特許出願,論文・学会発表を通じて薬剤科学の発展に貢献します.

1. 薬物動態制御による副作用の回避

副作用と薬物動態は非常に密接な関係にあります.そこで,薬物動態を巧みにコントロールすることで副作用の少ない治療法が提示できるよう研究を進めています.特に当研究室では肺への直接的な薬物投与を可能にする粉末吸入製剤の開発に力を注いでいます.例えば,特発性肺線維症治療薬である Pirfenidone は経口投与後に光毒性や消化管障害などの副作用を示すことが知られていますが,新たに吸入製剤を開発することによって (1) 作用部位への直接的薬物送達による投与量の減少,(2) 副作用発現組織への薬物移行量減少を共に達成することが出来ました.本知見は既に 13 ヶ国に国際特許出願をしています.

                         
[吸入剤の体内動態]

2. ナノテクノロジーや物性制御を利用した薬物動態・薬効の改善

我々が取り組む薬剤科学は生物薬剤学と物理薬剤学の 2 つから構成される学問です.薬物の物理薬剤学的特性を戦略的に改変することで,生物薬剤学的特性を治療に適した形に変化させることが出来ます.例えば,ナノクリスタル技術の適用によって水に溶けにくい薬物であるトラニラストの溶解性は著しく向上し,なおかつ消化管粘膜への付着性を高めることで飛躍的な経口吸収性の増大に寄与することが出来ました.


[ナノクリスタル製剤化による溶出挙動と体内動態の改善]

3. 病態下の薬物動態変化解析とその戦略的な回避方法探索

特定の病気になった際に,一部の治療薬の薬物動態が大きく変化することが知られています.例えば,低酸症と呼ばれる胃酸分泌が低下した状態になった場合には胃内 pH が上がる傾向にあり,その際に塩基性薬物の吸収性は大きく下がることがあります.また,激しい痛みを感じた際には痛み止めを服用しますが,強い痛みの際には消化管の動きが抑制されることによって薬物の吸収遅延が起こり,痛み止めがすぐには効かないという残念な現象が認められます.我々は薬物動態制御技術を適用して,このような病態下でも薬物動態と薬効が低下しないような薬剤開発に複数成功しています.


[ジピリダモールの中性領域での溶出挙動改善と低酸症モデル動物における体内動態の改善]

4. 経口吸収性と作用を改善した機能性食品素材の新規投与形態開発

クルクミン,コエンザイム Q10,ノビレチンなどの機能性は広く注目を集めていますが,これらの経口吸収性が極めて低いことは意外と知られていません.我々はこれらの機能性食品素材の吸収性を制御する生物薬剤学上の因子を明らかにし,これらを改善することによって動態と機能性を共に改善する試みを進めています.例えば抗認知症成分として知られているノビレチンの経口吸収性は固体分散体製剤技術を適用することによって約 14 倍も向上することが明らかとなりました.これに伴ってノビレチンの機能性も飛躍的な改善を認めました.


[ノビレチンの物性・動態改善とそれに伴う肝保護効果の増大]

5. 化合物の物性・動態情報からの副作用リスク予測

副作用を早期に予測することは医薬品の開発成功率を高め,より安全な治療法を提示することに結実することは想像するに容易です.我々は医薬品あるいは化粧品の物性と動態情報から効率よく副作用を予測する手法開発に取り組んでいます.この一環として,光線過敏症とよばれる副作用の予測を簡便に実施可能な新規技術開発に成功し,2013 年には我々の開発した手法が国際医薬品試験法ガイドライン (ICH S10 guideline) に採用されました.さらに化粧品や食品の安全性評価ガイドラインにも本手法の採用が進められています.基礎研究だけではなく,レギュラトリーサイエンス上の貢献も目指して今後も研究活動を推進します.


[薬剤性光線過敏症のリスク因子]

 
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