糖鎖生命科学の世界

高等生物からバクテリア、ウイルスにいたるまで、すべての生物はその細胞表面に糖の鎖 (糖鎖) を持っています。糖鎖の種類は構造的に多様で、質量分析法などの分析技術の発展と共に、現在も新たな糖鎖の発見が続いています。糖鎖の生物学的役割はきわめて多様です。糖鎖は、正常な個体では、受精、発生、細胞の増殖と死、神経伝達、幹細胞の増殖分化、免疫拒絶反応、自己非自己の認識など多くの現象を制御しています。一方、白血球と血管内皮細胞との接着が関わる炎症、がん転移、さらにはウイルス感染など、多くの病態が糖鎖の機能と密接に関わっています。
あらゆる細胞が纏う糖鎖の理解なくして、生命機能の統合的理解は成し得ません。構造と機能の多様性、ならびに、細胞代謝など、ゲノムからは独立した制御を受けることが、糖鎖の特徴です。ゆえに、糖鎖研究は、ポストゲノム時代の重要な研究領域の一つとなっています。実際、国家規模の糖鎖研究「ヒューマングライコームプロジェクト」は、文部科学省の大型プロジェクト基本構想ロードマップに2020年に正式に採択されました。
この潮流を捉え、私たちは、研究室一丸となり、糖鎖が関わる生命現象、特に、発生や幹細胞機能を制御するNotch シグナル伝達、ウイルス感染症やがんのような克服が切望されている病気、記憶などの神経伝達などにおける複合糖質の役割を、生化学・細胞生物学・生理学的手法および質量分析技術を用いて探究しています。さらに、健康長寿社会の実現を目指し、研究成果を新たなケミカルバイオロジーツールの開発とオリジナルな革新的創薬へと応用します。大事なのは好奇心と熱意!糖鎖生命科学の世界を一緒に探検しませんか。
研究内容
私共の研究のテーマは「糖鎖による生命のコミュニケーションを探る」ことです。具体的には以下に掲げる研究プロジェクトを大きな柱として取り組んでいます。
- 糖鎖による Notch シグナル調節メカニズムの解明とその薬学的応用
様々な生物学的プロセスを制御する Notch シグナルに必須の糖鎖修飾の発見を足がかりとして、生命の有する糖鎖の精緻な機能を明らかにします。また、糖鎖エンジニアリングによって、生体内シグナルを制御し、健康増進、病気の克服に寄与します。詳しくは、「細胞間シグナル伝達の糖鎖修飾による調節メカニズム」(英語版サイト) を参照のこと。 - ウイルス感染増殖における糖鎖の機能解明と抗ウイルス剤の開発
インフルエンザウイルスやパラミクソウイルス、ノロウイルスなどのウイルス感染を制御する糖鎖の機能やウイルス表面に存在する糖タンパク質の機能を明らかにし、その研究成果に基づいた新しい抗ウイルス剤およびウイルス検出剤の創出をめざしています。詳しくは、「ウイルス感染症」を参照のこと。 - 脳における糖鎖の機能解明
記憶の形成や、てんかんなどの神経が異常に興奮する病気の発症機構に関わるシアル酸などの糖鎖の機能を明らかにし、その研究成果を医薬品や機能性食品に応用することをめざしています。詳しくは、「神経疾患」を参照のこと。
研究室の1年間の主な行事
4月
2015年4月 新配属生の紹介を兼ねたお花見

新配属生歓迎会
5〜7月
研究室対抗スポーツ大会(バドミントン、ソフトボール)
バーベキュー
学会参加・発表(日本生化学会中部支部会、日本薬学会東海支部会など)
8〜9月
研究室旅行(一泊二日)

2015年8月27-28日の研究室旅行(東伊豆、小田原)
8〜12月
学会参加・発表
(日本生化学会、日本糖質学会、日本ウイルス学会、日本薬学会東海支部会、糖鎖科学中部拠点、静岡健康長寿フォーラムなど)
11月
研究室開放 - 大学祭(剣祭)
生化学教室(旧・生体分子薬学分野) OB会
12月
忘年会
2013年12月27日 生化学分野・講座 忘年会

薬学科卒業論文発表会
1月
博士論文発表会
2月
修士論文発表会
3月
薬科学科卒業論文発表会
謝恩会
学会参加・発表(日本薬学会)
毎週
国際論文雑誌の文献紹介
各自の研究中間報告会(報告書作成、スライド口頭発表)
勉強会(各自が講師として、専門分野の基礎知識などいろいろ)
生化学分野の歴史
生化学教室(分野)は、静岡薬科大学が開学された昭和28年(1953年)に開設されました。本教室は、小坂順蔵教授(1953年着任)によるマウス乳癌等に関する研究、松本亮教授(1962年着任)による脂質生化学に関する研究、鈴木康夫教授(1989年着任)ならびに鈴木隆教授(2006年着任)による糖鎖ウイルス学に関する研究によって発展してきました。この間に、同薬科大学は、1987年に開学した静岡県立大学の薬学部となりました。世界に誇る、この連綿とした研究の伝統を基盤として、現在、竹内英之教授(2021年着任)、高橋忠伸准教授、南 彰講師、紅林佑希助教の4名が在籍し、生命科学を俯瞰し、糖鎖機能の本質の解明とその革新的オリジナル創薬への応用を志向した最先端糖鎖生物学研究を進めています。
昭和28年
静岡薬科大学開校と同時に「生化学教室」が開設
平成18年4月
教室名を「生体分子薬学分野」へ改名
平成21年4月
教室名を「生化学分野」へ改名
昭和29年4月

小坂 順蔵 初代教授 就任
昭和37年11月

松本 亮 二代目教授 就任
平成元年10月

鈴木 康夫 三代目教授 就任(現 中部大学客員教授)
平成18年4月

鈴木 隆 四代目教授 就任
令和3年4月

竹内 英之 五代目教授 就任
生化学分野