当講座では、主に神経変性疾患や糖尿病関連疾患の病因解明とその治療薬開発をめざした、基礎から応用まで幅広い研究を行っています。

認知・運動機能をつかさどる脳内の神経細胞、血糖調節において中心的な役割を担っている膵内分泌細胞、及び慢性肝疾患における肝線維化の責任細胞である肝星細胞を主な研究対象としています。

薬理学的解析はもとより、電気生理学、生化学、分子生物学、遺伝子工学的解析を駆使して、“分子レベルから個体レベルまで”をモットーに研究を行っています。特に、細胞内分子動態のリアルタイム測定などの生細胞での解析を軸として、ホルモン分泌や形質変化、アポトーシスなどに対する一酸化窒素やフラボノイド類などの効果や糖毒性や脂肪毒性などによる影響を、細胞内シグナル伝達の解明に重点を置いて研究を展開しています。また、幅広い天然物素材をターゲットとして、ユニークな薬理活性を持つ新規生理活性物質の探索も行っています。

パーキンソン病やレビー小体型認知症の発症機序は未だに不明な点が多く、根本的な治療薬の開発には至っていません。我々は、パーキンソン病モデルマウス、レビー小体型認知症モデルマウスとこれらの初代培養細胞を駆使し、レビー小体病の原因タンパク質の伝播や細胞取込み、毒性発現のメカニズム解明を目指しています。またレビー小体病の病態解明から、新たな治療標的を用いた新規治療薬開発と、その実用化に取り組んでいます。さらに治療対象となる患者様を適切にスクリーニングするためのバイオマーカー解析と定量化方法の開発、および遺伝子解析も実施しています。

詳細はこちら→ https://plaza.umin.ac.jp/brain/theme.html

脂肪酸結合タンパク質を標的としたレビー小体病の治療薬開発

これまでに私たちは脂肪酸結合タンパク質(FABP)をターゲットとした数々のリード化合物の創出に成功し、レビー小体病の原因タンパク質でαシヌクレインの細胞内凝集を予防することに成功しました。対象疾患はパーキンソン病、レビー小体型認知症、パーキンソン病認知症、多系統萎縮症です。2025年3月にFABP3リガンド(WO2017171053 A1)の前臨床試験が完了し、2026年度より臨床試験を開始しています。

レビー小体型認知症・パーキンソン病の超早期診断技術の開発

最近わたしたちはレビー小体病の独自バイオマーカーと定量化技術の開発に成功しました(特許出願2021-012620、WO2022163818 A1)。この技術により、レビー小体型認知症、パーキンソン病をはじめ、アルツハイマー病を精度よく鑑別することが可能であり、発症前における認知・運動疾患の診断応用が期待されます。

 私たちは、分子スイッチであるGタンパク質に着目し、膵B細胞でインスリンを蓄えている小胞(インスリン顆粒)の動態が時間的・空間的にどのように制御されているのかを解析しています。Gタンパク質は、GTP型が活性型(スイッチのオン)でGDP型が不活性型(スイッチのオフ)とこれまで考えられてきました。私たちは、GDP型のGタンパク質(Rab27a)に結合し、下流にシグナルを伝える分子(coronin3、IQGAP1)を世界に先駆けて発見しました。私たちは、「GDP型依存性エフェクター」の概念を提唱し、低分子量Gタンパク質ではどのくらい普遍的な現象であるのかを検討しています。

 私たちは、従来不活性型と考えられてきたGDP型Rab27aに結合してシグナルを伝える分子coronin3、IQGAP1を世界に先駆けて発見し、「GDP型依存性エフェクター」という新たな概念を提唱しました。さらに、Rab27aのGTP型・GDP型間のサイクリングが、膵β細胞におけるインスリン顆粒膜のリサイクリングと同期していることを明らかにしつつあります。これまでほとんど解明されてこなかった開口放出後のインスリン顆粒膜の動態とエンドサイトーシス制御に着目し、インスリン分泌の新たな制御機構の解明を目指しています。

 糖尿病はインスリン作用不足による慢性の高血糖状態を主徴とする代謝性疾患です。糖尿病患者数は食生活の変化、ライフスタイルの変化により全世界的に増加の一途をたどっています。世界の糖尿病人口は2019年には4億6000万人が罹患しており、2045年までに7億人まで増加すると推定されています。日本においても、糖尿病予備軍を合わせ、患者数は2000万人にのぼり、今後も拡大していくと推測されています。糖尿病は主に、自己免疫疾患である1型糖尿病と、普段からの生活習慣が引き金となり、インスリン分泌不全やインスリン作用不足を引き起こす2型糖尿病に大別されています。患者数は2型糖尿病のほうが圧倒的に多く、日本では95% 以上を占め、2型糖尿病の予防と克服は、焦眉の課題となっています。
 2型糖尿病は、膵β細胞インスリン分泌機能の障害や、β細胞量の低下が引き金となることが知られ、当研究室では糖尿病の発症・進行を食い止めるために、膵β細胞機能および細胞量低下の抑止を目指し膵β細胞機能の解析を行ってきました。方法として、マウスおよびラットより膵島を単離したもの、および膵β細胞株を用い、多種の刺激に対するインスリン分泌反応や、遺伝子・タンパク質発現の解析、遺伝子組み換え動物や遺伝子組み換え実験により、インスリン分泌やβ細胞機能維持に関わる分子・物質の探索や機能解析を行っています。これまでに、中性脂質であるジアシルグリセロールを代謝する酵素であるジアシルグリセロールキナーゼがインスリン分泌機能やβ細胞増殖機構に重要な役割を果たしていること、各種天然物に含有されるフラボノイド成分が膵β細胞機能維持に寄与することなどを見出しています。こうした研究を通じβ細胞機能維持による、膵β細胞を標的とした新たな糖尿病発症予防法、治療法の開発を目指しています。

 肝非実質細胞の一つである肝星細胞(Hepatic stellate cell: HSC)は、肝傷害時に活性化され、コラーゲンを産生・分泌する筋線維芽細胞様の形態を示します。そのため、活性型HSCは肝線維化の責任細胞と考えられています。現状、進行した肝線維化の治療は難しいとされるが、静止型HSCがコラーゲンなどの細胞外基質を分解するmatrix metalloproteinase(MMP)を分泌することから、活性型HSCを静止型HSCへと脱活性化できれば、肝線維化も治療可能であると考えられます。